ひとり、あわあわと焦っていると。
とん。
黙ったままの後藤くんの長い指が教科書の文を指差した。
「えっと、そ、そうして彼は……」
立ち上がって、示された部分をつっかえながらもなんとか読む。
その間も、もちろん後藤くんと教科書を共有しているのは変わらなくて。
いつもよりずっと近くて、つむじが見えているくらいの距離。
「……はい、じゃあそこまでで」
ほっと息を吐き出す。
長いスカートにしわが入らないように気をつけて。
かたん、と小さな音を立てながら席につく。
「あの、ありがとう」
「ん」
短い言葉にそっと頬に手を当てる。
……あつい。
男の子はこわい。
だけど、後藤くんには「ありがとう」って言える。
むしろ言いたいって思うんだ。
どきどき。
そわそわ。
新しい、その感覚。
中学生になって、わたしはなにかが変わったのかな。
知らなかった自分を少しずつ、知っていくの。
それがなんだか、嬉しいの。

