いつかのように、わたしの掌に転がる消しゴム。
それは後藤くんが入学式の日にくれたものじゃない。
わたしが用意していた新しい、まだ角のはっきりしているもの。
後藤くんがくれたものは、……なんでかなぁ。
もったいなくて。
使って小さくなっていくのが嫌で。
そっと家の机の上に置いてあるの。
そうしてしまう理由はわからないんだ。
ただの消しゴムのはずなのに、おかしいよね。
「市原」
「は、はいっ」
「悪い、教科書忘れた。見せてくれ」
こくん、と小さく頷く。
今は国語の時間だから、教科書がないと困るから。
だから、……仕方がない、よね。
うん。
いつも後藤くんには助けてもらったりしてるし。
がたがたと音を立てながら、後藤くんが自分の机をわたしの机に寄せる。
人ひとり分と少し。
開いていた距離がなくなった。

