「じゃあ、僕はバスだから」

地上に出た所で、尚人は右方向を指さす。


それからふと思い出したように、動きが止まった。


「そうだ、帰りの交通費は大丈夫?」

「はい。腹一杯になったから、歩いて帰れます…ご馳走さまでした」

裕一郎はペコリと頭を下げる。

「どう致しまして。気をつけて帰るんだよ、じゃあね」

軽く手を上げると、尚人は背を向け歩き出した。


(結局、言い出せなかったな…)


人混みに消えていく後ろ姿を見送りながら、そっと思う。


(ヤバい。このままだと後悔しそう…)


もう会う事もないかもしれないと思うと、裕一郎の気持ちがざわめいた。

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