尚人はチラリ腕時計に視線をやると、
「随分時間が経っちゃったね。そろそろ出ようか」
会計伝票を手に、席を立つ。
気がつくと午後1時をとっくに回っていた。
「あ、津久見さん。今度お金返しに行きますから住所を…」
「いいよ、これは僕の奢(おご)り。この前のお詫びだよ」
「とんでもない、それは困ります!!」
裕一郎は慌てて言った。
「どうして?」
「どうしてって…空腹な所を助けて貰ったのに、その上奢ってもらうなんてとんでもないです!!」
「…………………ぷっ」
思わず尚人は吹き出した。
「えっ…何で笑うんですか!?」
「素直でいい子だな、と思って」
「素直でいい子だと、津久見さんは笑うんだ…」
「ごめん。知ってる人に似てたから、つい…じゃあ、笑ったお詫びに奢らせてよ。ね?」
「ぁ…………」
にこり微笑まれて、裕一郎はドキリとする。
(うわっ…オレが女だったら、絶対今ので落ちてるよ…)
この人の笑顔は《武器》だ…裕一郎は心密かに思ったのだった。
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