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お昼の飲食街は、サラリーマンやOLでどこの店も混雑している。

尚人に嫌いなものを聞かれたので『特にない』と答えると、美味しい定食屋さんがあると案内してくれた。


何だかとても意外である。


見た目の印象ではイタリアンやフレンチを好みそうな雰囲気なのだが…ひょっとすると自分に合わせてくれたのかもしれないと、裕一郎は思った。



「あの時は途中で帰ってしまって悪かったね。実は凄く気にはなっていたんだけど…」


「いえ、こっちこそ突然不躾なお願いをしたんですから…当然です」

裕一郎は俯いた。

「そういえば君、名前は?」


「如月裕一郎です」


「裕一郎くんね」


名前を繰り返すように呟かれた裕一郎の心臓は、もう爆発寸前である。

津久見尚人は仕事のパートナーとして、憧れを抱いている人だ。

その彼に名前を覚えて貰えるなど、こんなに嬉しい事はない。

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