Darkness † Marker 3  【降る雪は淡く…】

「まぁ、あなたが自分の力をどうしようと、それはあなたの勝手だ。他人の私がとやかく言う事ではありませんね。立ち入った事を言って失礼しました。とにかく、今日あなたに会って言いたかったのは、如月に対して傷つく物言いだけはしないで頂きたい、とそれだけです」


「……」


「彼も色々事情が複雑な子でね、あなたの周囲の人間みたいに理解ある人ばかりではない環境で育ってきたんですよ。それは少なくとも、能力のあるあなたであれば分かって貰えると思うんですが?」

河村は様子を窺うような目で、彼を見た。


「でも出来ないものは出来ないと、はっきり言ってあげる事も必要ではないんでしょうか。大切にしてやるだけが彼にとっていいとは僕は思えない…厳しさを知り、受け入れる事も覚えなければこれから先、もっと辛い思いが増えていくと思いますよ。社会で生きていくとは、そういう事ではないでしょうか」


そう言うと、尚人は立ち上がった。

「どんな普通に生きている人たちだって、みな同じですよ。平坦で幸せだけに包まれた人生なんて、どこにもないんです…お話は終わったようなので、これで失礼します」


「あ、ちょっと…」


河村が呼び止めるのも聞かず、彼は事務所を出て行った。


「へぇ…もう少し人の意見に流され侍かと思ったら、結構しっかりしてるじゃねーの」


窓から尚人の姿を見送りながら呟くと、河村はニヤリと笑った。

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