Darkness † Marker 3  【降る雪は淡く…】

「ここはあんたの来る場所じゃない。帰るべき場所へ戻るんだな」

河村は部屋の隅に無言で立っている霊に声を掛けた。

すると蜘蛛の後ろをついて、男はうなだれるような姿勢で玄関へ向かうと、そのままドアをすり抜け姿を消す。


「あなたからしたら、アレくらいのものは気にも止めないってとこかな…それとも気にしないようにしてる?」


蜘蛛の出す糸が見えていた様子だから、かなり霊を見る力があるという事だ。

普通の人間なら蜘蛛が動き回っているのも見えないし、第一、霊の存在にすら気づかないだろう。


「僕には《霊》を祓ってくれる知人がいます。だからその人以外に霊的関わりを持つ事は、今までもそしてこれからもずっとあり得ない…」


「知人…あぁ、お寺の息子さんね。でも彼は他県に住んでいて、滅多に会う事はない。あなたが困った時に、すぐ駆けつけるのは無理だ…………いや、もしかするとそんな時にはあなたの事を気に入っている《霊》が手を貸してくれるのかな?」


皮肉めいた言葉を河村が投げかけると、瞬間、尚人の顔がカッと赤くなる。



(図星か…)



いくら河村とは言え、何でもお見通しとはいかない。

ちょっと鎌を掛けてみただけだったのだが、どうやら当たりだったようだ。

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