電話を切って1時間が経過した頃、事務所のドアをノックする音が静かな室内に響いた。

河村が出ると、黒いタートルに同じく黒のパンツ、そしてグレーのコートを着たスラリとした青年が立っている。


「遅くなってすみません。先ほどお電話しました、津久見です」


「いえ、こちらこそ突然お呼び立てして申し訳ありません。中へどうぞ…」

河村が脇へ避けると、彼は『失礼します』と言ってドアを閉めた。


(意外と礼儀正しいな…)


柔らかな物腰に、河村は想像していたイメージと違って調子が狂う。

あの写真からは、もう少し軽くて軟弱そうな印象を受けたのだが…。

しっかりとした意志を持っている目をしていた。

尚人にソファーを勧めた後、お茶を出した河村は向かいに座る。


(なるほど…)


それからまじまじと青年を正面から見た河村は、密かに納得した。

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