カチャ…


いつもなら『ただいま』と必ず言う裕一郎が無言のまま事務所に帰ってきたのは、午後3時を少し回った時の事だった。


「遅かったな」


パソコン入力を手を止めて、河村は声を掛ける。

「あれから暫くして、仕事が早めに終わったから迎えに行こうと何度か電話したんだぞ」

「ごめん、マナーにしてて気づかなかった」

答えると、裕一郎はそのまま台所に向かう。

「久司、他に急ぎの仕事ある?」

「仕事なら処理しきれてない書類と、整理するもんがココに山ほどあるぞ」

「…じゃなくて、依頼だよ」

「どうした?いきなり働きもんになったなぁ」

いつもだったら『疲れたからもう今日はこれ以上仕事はしない』と駄々をこねる彼が、自分から自発的に申し出るなどまず考えられない事なのだ。



「……………」



急に返事がなくなる。

河村はデスクから離れると、何をするでもなくボンヤリと立ち尽くしている裕一郎の背に声を掛けた。

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