「往来でそんな話をしてはいけないよ…」

やんわりと、でも有無を言わせぬ口調だった。


「あ…すみません」


怒らせてしまったのだろうか…、声のトーンが少し低くくなった気がする。

「僕は普通の生活がしたいんだ。お願いだから、そっとしておいてくれないかな」

「どうしても、ダメですか?」

「うん。例え君が何度同じ事を言ったとしても、僕の気持ちは変わらない…もし裕一郎くんが、仕事上のパートナーを必要としているなら、他の人を当たった方がいいと思うよ」

ハッキリと通る声。

それは尚人の揺るがない意志…。


けれど、裕一郎も自分の思いを譲れない。


「オレの本当の力を見せたとしても?」

「?」

裕一郎は尚人の腕を、とっさに右手で掴んだ。

「力を貸してはくれませんか?」

「!!」


瞬間、ピリピリとした痛い感覚が彼の体を駆け抜け、その表情が凍りつく。


(えっ、何で…この感じ…)


周りの雑音が耳に入らなくなる程、全ての神経が裕一郎の掴む腕に集まるように持っていかれ、尚人は愕然とした。

霊に遭遇した時と同様の寒気がする。

それもかなり強い…。


「裕一郎くん…手を…その手を、離してくれないかな…」


銀に光る尚人の指輪が、みるみる黒く濁っていく。


(このままじゃ、指輪が壊れてしまう…)


「離すんだ!!」


尚人は焦り、掴まれた腕を振りほどこうと激しく抵抗した。
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