「和歌。十四日空けとけ。……デートすんぞ」

「……う、うん」


ようやく手を離した俺を、彼女はチラリと伺って。
「じゃ、明日ね」と克司にも手を振って、教室を出ていった。

克司は和歌に手を振ったまま、悪気なくヘヘっと笑ってみせた。


「悪い、洋介。邪魔しちゃったな。でもいい雰囲気だったじゃーん。和歌と上手くいきそう?」

「邪魔してんのは誰だよ。で? ……春香がなんだって?」

「そうだ! 聞いてくれよ洋介。さっき春香が道場まで来てさぁ」

「やっぱり聞きたくない」

「良いから聞け! 俺の事ちゃんと好きだって。十四日には手作りのクッキー作ってくるってさぁ」

「……うるせー! ノロケなんか聞きたくねぇ!」


おのれ、ぬけぬけと。
しかもなぜお前が返さなきゃならないのに、春香が作るんだよ。わけわかんねぇ。

今お前がそうやって幸せ気分でいられる背景には、和歌の切実な思いや俺の涙ぐましい努力があると言うのに。


「もー頭きた。克司、今日こそはお前から一本取ってやる。行くぞ、部活」

「え? 何怒ってんだよ。さっき邪魔したのまだ気にしてんのか?」

「うるせぇ!」


浮かれ気分の克司の首根っこを掴んで、道場まで戻る。
途中で教科書をとってきていないことに気付いたが、もう構うもんか。

けれども、竹刀を持って向かい合えば、なぜだか克司には敵わない。

なぜなんだろう。不思議で仕方が無い。
一体いつになったら、克司に勝てるって言うんだよ!!