「いらねぇよ。それより克司こそお返しはどうするんだ? 知ってるか? 返しは三倍ってルールがあるんだぜ」
「三倍?」
「そう。ここはバシッと決めないと女は幻滅するな。きっと期待してるなぁ、春香。さあ、どうする」
「うわーマジか! 俺、クッキーでも返せばいいのかと思ってた」
「バーカ。クッキーだと『友達』っていう返事だぞ。お前もっと学べ」
スマホを取り出して、『ホワイトデー、お返し、意味』で検索した結果を見せる。
克司は目を丸くしたかと思うと、がくっと崩れ落ちた。
「お、奥が深いな。ホワイトデー」
「そうそう。だからお前に人のことを考える余裕など無いはずだ」
「そうだな。じゃあまずは精神統一だ! いくぞ部活」
「おう」
先に駆け出していった背中に、心の中で念じる。
せいぜい頑張って大げさなものを贈ればいい。
春香にドン引きされるほど派手にやればいいよ。
もうお前はむかつくから勝手に撃沈してろ。
「……てか、俺もだな。何贈ろう」
和歌にとっては義理チョコでも俺の返しは本気だ。
もののサイトによると本気の返しは飴だというが。
女を感動させるような飴ってなんだよ。
飴細工でも贈ればいいのか。何処に売ってるんだそれは。
「……部活してる場合なのか? 宿題だってあるのに……って、そうだ」
数学の宿題出てたよな。
やべぇ、教科書、机に置きっぱなしだ。
仕方ない、戻るか。
「克司、俺、忘れもん取りに教室戻る」
「おー!」
もう剣道場寸前まで行ってしまった克司に大きな声で叫ぶと、聞こえたらしく手を振って反応された。
「あー、荷物、克司に預けりゃ良かった」
とは言え、ここまで戻って来いとも言えないので、仕方なく自分で荷物を抱えて今きた道を戻った。



