少年は手近な木に登り、枝に腰掛けて泉を見守りはじめた。
二人が出てきたとき、赤子の無事を報告するためだろうか。
静かな夜の森の中、ただ枝の上で時が過ぎるのを待つ。
――その一瞬は、そんな静けさの中に、唐突に訪れた。
泉が光った。
その光から、見覚えのある銀の髪が出てくるのが見えた。
きょろきょろと、あたりをうかがうその姿を見て、少年が木から降りようと体を起こす――そのとき。
ヒュン、と風を切る音がした。
続いて聞こえた鈍い音に、全身の毛が逆立つのを感じた。
「月詠っ!」
短い叫びは山吹のもの。
動揺で視界がぐらついた。
意識を夢に集中させて、銀花は目の前の光景に目を戻す。
ここで目覚めてしまっては元も子もない。
泉から出てきた山吹に支えられた月詠の肩には、矢が刺さっていた。
その矢羽の向かう方向、暗い草陰から数人、否、十、二十人もの男が姿を現した。
待ち構えていたのだ。ずっと。



