届屋ぎんかの怪異譚




「よくばりで、情の深いひと」



一瞬、思っていたことが口に出たかと思って、銀花は戸惑った。


遅れて、これが自分ではなく、自分が見ている記憶の持ち主の言葉だと気付く。



「……白檀様が、あなたのことをそう言っていました。必ず、この子を玉響様のもとへ無事に届けると、約束します」



言うが早いか、少年は赤子をしっかりと抱きしめ走り出した。


昏い森の中を、迷いなく進んでいく。



玉響の家に着くと、少年は事情を説明して玉響に赤子を預け、すぐに森へ引き返した。


玉響はついて来ようとしたが、赤子に危険が及ぶことがないよう守ってやってほしいと言って押しとどめた。



森の中を進み、水月鬼の泉まで戻る。

泉の周囲は静まり返っていた。


馬や人の通った形跡はあったが、争いが起きたようでもない。

ただ静かに凪ぐ水面を見て、少年は安堵のため息を吐いた。



これでもう大丈夫。

きっとこのひとはそう思ったんだ、と、銀花は思った。



けれど銀花は知っている。

――大丈夫なんかじゃなかったことを。

この日、父と、あるいは母も、死んでしまうことを。