十年経っても白檀は武家の姫さんだ。
無断で外へ出るのは禁じられていて、山吹とわたしはよく下町の菓子なんかを持って白檀に会いに行った。
小さな頃みたいに鞠で遊ぶことも、まぁたまにはあったが、十五の娘になったわたしたちは縁側に座って井戸端会議が常だったね。
話すのは専ら山吹の片恋の相手について、だったよ。
それが月詠、銀花の父親だ。
山吹が月詠に出会った場所、月詠と会っていた場所については知らない。
山吹は絶対にそれを話そうとはしなかった。
水月鬼っていうのは、あまり知られていない妖でね。
どこでどういうふうに暮らしているのかも、どんな姿をしているのかもよくわかっていなかった。
わたしは退治屋だったが、退治屋仲間のうちでも会ったことのあるやつは一人もいなかった。
山吹の話からすると、人と変わらぬ姿形をしていて、ひとつの集落のような形で暮らしているらしかった。
月詠はその集落の、長のような存在だったのだろう。



