「……殊勝な二藍なんて珍しいから、しばらく怒ったふりでもしてようかと思ったけど、やっぱりやめた」


小さく微笑んで、猫目はしゃがみこむ。


そして「お疲れさん」と言って二藍の頭を撫でると、二藍がさらに深くうつむいて背中を震わせた。


そばへやって来た今様の白い尻尾が、労わるように、慰めるように、黒狐の小さな背をパシパシと叩く。



それを見て安心したように笑うと、銀花は改めて、隣に立つ朔の師匠に向き直った。



「あの、助けていただいてありがとうございました」


「いやいや、当然のことをしたまで」



朔の師は快活な笑みを浮かべて、顔の前で手をひらひらと振る。


それからふと思い立ったように、ずい、と女か男か判別のつかない顔を銀花に近づけると、

「よく似てる」

そう言って、ふわりと柔らかく笑った。



誰に、なんて。考えなくてもわかる。



「あなたが母を……山吹(やまぶき)を知っていると、朔から聞きました。朔のお師匠様」