晦が、動いた。

それまで固まったように動けずにいた晦が、朔と猫目の視線が銀花のほうを向いた瞬間、素早く腰に差した短刀を引き抜く。



「――朔っ!」


とっさに叫んだが、晦の狙いは朔ではなかった。



晦と銀花の目と目が合った。


晦の薄い唇の両端がつり上がるのを、銀花は見た。

晦が手首を軽くひねった。



ヒュッ、と、風を切る音がして。



短刀の刃がキラリと光る。


体は動けずにいるのに、まっすぐ銀花めがけて飛んでくる短刀は、やけにゆっくりに見えた。



ふっ、と、世界が遠くなる感覚がした。


耳が音を拾わなくなって、手足の感覚がなくなっていく。


暗くなりかけた視界で、蒼白になった朔の顔が見えた。


朔の、晦と同じ薄い唇が開いて、言葉を――名前を、呼ぼうとする。



「銀花――……!」



――キンッ!



朔の呼ぶ声にかぶせるようにして、鋭く高い音が鼓膜を突き刺した。



何が起きたのかわからず、銀花は驚きに目を見開いたまま動けずにいた。


その足元に、もつれるようにして落ちた、二つのもの。



晦が投げた短刀と、もう一振りは――。



「……くない?」