怒鳴り返して、朔は右腕を振り上げた。
晦はそれを受けとめるため刀を持った右手を前に突き出す。けれど。
ヒュッ、と空気を切る音がして、銀の光が飛ぶのを、銀花は見た。
晦が横に構えた刀を、朔が下から蹴り飛ばしたのだ。
上からの力だけに備えていた晦の刀は、予期しない下からの力に対抗する術を持たず、軽々と蹴り上げられてしまう。
晦の顔が強張る。
朔が地を蹴る。
刀を振りかぶる。
晦の刀が地に落ちる。
蒼い炎が舞い、刀が振り下ろされるその軌道が、銀花の目に焼きつく。
「だめ」
何もできないまま、たったひとこと口にして、銀花はぎゅっと目をつむった。
しばらくしても、何の音もしなかった。
静まり返ったまぶたの闇の中、鼓動をいくら数えても、何の音もしなかった。
晦の声も、晦が地に倒れる音も。
おそるおそる目を開いて、銀花はその光景に息を飲んだ。



