届屋ぎんかの怪異譚




「人の体は脆い。わらわは人の脆弱な体にさとりの強大な妖力を宿しておるがゆえに、体を壊しやすくてのう。

銀花には世話になっておるのじゃが、わらわでは当然ながら薬代を出せぬ。

徳川は良い金づるになってくれるのじゃ」



そう言って、萩は喉を鳴らしてころころと笑った。



「萩は人の心が読めるから、将軍様や老中様からもよく相談を受けていて、裏話なんかに無駄に詳しいの。

それにほら、地下にずっとこもっていて暇だから、本もたくさん読んでいて博識なのよ」



なるほど、と朔は納得した。

銀花が萩を頼った理由がわかった。



「さて、じゃあ本題に移りましょうか。もっとも、萩は言わなくてもわかっているんでしょうけど」



銀花の言葉に、萩はかすかに目を細めた。


ずっと妖艶な笑みを浮かべていた美しい顔が、わずかに険しくなる。



「首吊りの鬼。その妖の名は縊鬼(いつき)という。生前に不幸があって首をくくって自死した者の怨霊が転じて鬼となったものじゃ。


憑いた者を自死に導くことは、もうわかっておろう?銀花にも憑いているのに糺も憑かれたということは、なんら難しいことはない。

首吊りの鬼が、この江戸に複数いるということじゃろうのう」



じゃが、と、萩は続ける。


「解せぬのは、その数と速さじゃ」