届屋ぎんかの怪異譚




弥吉が目を覚ましたのは、銀花が休憩に行ってからしばらくしてからのことだった。


目を開けた弥吉は、父母の呼びかけにも応えずに虚ろな目でぶつぶつと何かを呟きながら部屋を徘徊し始めた。


その肩には父母の言の通りに、うっすらと鬼の影が現れていた。



その鬼の影を刺したところまではよかった。


だが、苦痛に暴れだした鬼にとどめを刺すことができなかった。


下手をすれば、暴れる弥吉を斬りかねないからだ。


そうこうしているうちに鬼は弥吉の体から逃げ出した。


憑依にはかなりの力が要るから、傷を負ったまま弥吉に憑き続けるのは無理があったのだろう。


逃げたはいいが逃げ切るのは困難、そんな折にちょうどいい隠れ場所が現れた。



――人よりも憑きやすい銀花だ。


同じ〝鬼〟であるだけ馴染みやすいのだ。