しかたがないので、銀花はすぐに目についたそばの屋台へ向かった。



頼んだそばができるまでの間、銀花は屋台のわきに立って、道行く人をぼんやりと眺める。



と、そこに知った横顔が通りかかった。



「……かずらさん!」



呼び止めると、女が顔を上げる。

橘屋の常連のかずらだった。



「これは、銀花さま。ご無沙汰しております」



人波を抜けて銀花のもとまで来ると、かずらは丁寧に腰を折る。

毎度のことだが、銀花は苦笑した。



「かずらさん、〝さま〟なんて付けなくていいのに」



「いえ。銀花さまは萩姫さまのご友人でいらっしゃいますから」



微笑んで首を振るかずらに、銀花は曖昧な笑みを返した。

いつものことだが、自分よりもずっと年上のかずらに下手にまわられるのは、少々居心地が悪い。