届屋ぎんかの怪異譚




「朔、が、萱村の……」



水月鬼を滅ぼした萱村秀栄の、子息。

萱村事件で唯一生き残った長男。



「そうだ」


朔は頷いて、そして「銀花、」と、もう一度名を呼んだ。



「それを知った今、おまえは、俺を恨むか」



静かな声で問う朔に、銀花は小さく笑った。

――答えなど、悩むまでもない。



「恨んだりなんて、できないわ」



銀花はきっぱりと言う。



「もちろん一族の鬼たちに会ってみたかった気持ちはある。人から気味悪がられる度に、その気持ちは強くなったわ。

だけど、親の顔も知らないし、物心つく前に一族を滅ぼされてしまったと知っても、なんだか他人事のようで、萱村を恨む気にはなれなかったの」



「……そうか」



「ましてや朔は鬼退治のとき、小さな子供だったでしょう? 恨みなんて、持てないわ」



偽善でも強がりでもなく、そう思う。

朔を恨むには、見たことのない親や一族への想いはあまりに希薄だ。


銀花にとって今、大切なものはどちらかと自分に問えば、その答えは明白だった。