一緒に住むかって恭くんが言い出したのは、大学を卒業する間近。
春先というよりは、冬に近い季節だった。
突然の申し出に驚いた私に、恭くんが告げた理由はというと。
『一人暮らししたいって、おじさんに言っただろ?
おじさんから、経験として一人暮らしをさせてみるのはいいけど、いきなり一人は心配だから、一緒に住んでやってくれないかって言われたんだよ』って事だった。
うちは、古くから続く会社を持っていて、世間一般で言う富裕層だとかセレブだとかそういうのに該当するのかもしれない。
だけど、必要以上に甘やかさない、当たり障りなく普通に、っていうのが家訓らしく、言葉通り普通に育てられた。
学校だって普通に自転車で通ったし、習い事だってあれをしなさいこれをしなさいと言われる事なく、友達と普通に同じ事をした。
両親のその、異常なまでの〝普通信仰〟はきっと、四つ上のお兄ちゃんに理由があるんだろうってこっそり思ってる。
何も考えずに育てたら、お兄ちゃんがものすごいシスコンに育っちゃったからじゃないのかなって。
でもそういうのって、育て方っていうよりもう、お兄ちゃんの性格っていうか素質みたいなものなのかな、とも思うけど……。
私を異常なくらいに可愛がって過保護をイキイキと発揮するお兄ちゃんを見ていて、あ、このままじゃダメだ……って、お父さんたちは何かを感じたんだと思う。
強い危機感みたいなものを。



