「国見さんとああやって話せるの、喫煙室くらいだからでしょ。
ほら、国見さんって見た目いいけどガード厳しいって噂だし。それに、煙草吸う女子社員ってほとんどいないから、喫煙室内なら誰にも邪魔される事ないからじゃない?」
「……あ、そっか」
「あと、絶対見せびらかして牽制してるんだろうけどね。
ガラス張りなのに会話は聞こえないってさー、なんかやらしくない? こう、オープンなんだけどどこか秘密めいてて」

よほど気に入らないのか。
宮地さんに吐き捨てるみたいに言われて、ああ、なるほどなぁと思う。

見えるけど、何を話しているのか分からない。
それはなんだか、暗にふたりの関係を見せつけているようにも見える。

話し声が聞こえないからこそ、親密な話なのかな、仲良しなのかな、とも思うし。
仲良し……なのかな?

なんとなく目が離せなくてじっと見つめていると、不意に恭くんが笑ってドキっとした。
私に向けられた笑顔じゃないのに、あまりに久しぶりに見る笑顔に肩が跳ねる。

私が身体を揺らしてびっくりしたから宮地さんは何かあったのかと思ったみたいで「え、なに地震?!」って大きな声で聞いた。
そのせいで、オフィスが一瞬ざわつく。

他の人が天井からつるされている「庶務課」のプレートを見て、揺れていないかの確認をしている間に「違……っ、な、なんでもないです」とコソっと告げると、宮地さんは「なんだーびっくりした」って笑った。