ゴロゴロ、と遠くから遠雷が聞こえた。だけど、あたしの耳には入らない。
ハルトが放った言葉が、それ以上の衝撃で鼓膜を震わせたから。
「百年前……?」
「ああ」
「ディアン帝国が……できたころ?」
「そうだ」
確認する意図もなくただ口からこぼれた言葉は、律義にハルトによって重ねて肯定されていく。
寒くもないのに、肌が粟立って体が震えた。
「ば、バカなこと……言わないでよ」
時間をかけて押し出せたのは、否定をすることば。いつになく本気な空気を纏わせたハルトに、あたしは根拠のある反論を唇に載せた。
「だって、秋人おじさんが居なくなったの……8年前の秋、なんだよ? それなのに、百年前って。冗談にしてもつまらないし、考えられないでしょ。なんでそんな意地悪言うの?」
「……」
あたしが否定をして欲しくてぶつけたのに、ハルトはただ黙って目を伏せて首を左右に振った。
そして、彼とは異なる朗々とした声が訓練所に響く。
「転移や召喚魔法が難しいのは、何も世界という空間を越えるからだけではないのです。異なる“時間軸”をも越える必要もあるので、それだけ物理的な制約をねじ曲げる超越した力が必要だからです」
ハッ、と振り返ると。薄明かりの中に銀色に輝く存在――セリス王子がいつの間にか静かに佇んでいた。
彼は、白い無地のシャツに黒いズボンで髪と同じ色のサシェで腰を纏めている。ラフな装いでも、滲み出す気品と優美さは変わらない。
そんな彼から、決定的なひと言が放たれようとしてる。やめて、と無意識に駆け寄っても。セリス王子は悲しげに瞳を揺らすだけで否定をしてくれなかった。



