「なんか、ごめんね。紛らわしい真似して」


 疲れ果てたように冷たいコンクリートにしゃがみ込む青山に、フェンスによじ登っていた篠塚が謝罪する。

 屋上のフェンスによじ登る人がいたら、勘違いしても仕方がない。

 俺もビックリして、そう勘違いするかもしれない。

 じきに、あの二人も来るだろう。

 エレベーターの秘密は香坂から聞いたと篠塚も言っていたし、青山もすぐに上がってきたことを鑑みると、公然の秘密らしい。


「いや、謝るのは俺のほうだ」


 篠塚に謝られた青山がすっくと立ち上がり、深々と頭を下げる。


「ごめんなさい!! 篠塚さんのこと勝手に喋ったりして……やっていいことじゃないって分かってたのに、俺……」


 やっぱり青山が話したんだと幻滅する一方で、潔く謝る姿に胸が熱くなる。


「謝って許されるようなことじゃないのはわかってるけど、本当にごめん!!」


 青山の姿に、篠塚は首を横に振る。


「本当にそうだよ。謝ったって、みんなに知られたことがなかったことにはならない。許すとか許さないとか、そんな次元じゃないよ」

 篠塚の声は冷たくて、俺は自分で暴露したけど勝手に暴露された篠塚の気持ちを思うと当然だった。


「でも……悪いことばっかりじゃなかったから。私からはもう何も言わないよ」


 俺に目配せをして、微笑む。

 バレンタインから気まずかった篠塚との関係は今日の出来事で修復された。

 授業で習った言葉を思い出す。

 こういうの、塞翁が馬っていうんだ。