「僕、自分が歌えないの判ってる、けど。
 どうしても歌いたい歌が一曲だけ、ある。
 今、その曲を想いながら声を出して、みた。
 原曲とは絶対違うことは判ってる、けど。
 この声が聞くに堪えない騒音じゃないなら、良い」


「聞くに堪えない騒音!?
 とんでもない!!
 すごくキレイな歌でしたよ! 優しくて! すごく、切なくて……!」


 どうして、あんなに素晴らしい歌が『騒音』だなんて思うんだろう!


 わたし、自分の耳で聞いたことを、本人に伝えたくて。


 あの歌が、どんなに素敵だったか、一生懸命説明してた。


 すると、今まで堅い表情をしていた彼が、ふわり、と笑う。


「……そ、か。良かった。
 とても、とても大切な歌だった、から。
 その感想、嬉し」


 おお~~


 このヒト、金髪碧眼で、顔、整ってるからかな?


 はにかんだように笑う表情が、まるで天使みたいだ。 


「元の歌ってどんな歌、なんですか?
 差し支えなければ、聞いてもいいですか?」


 心の底からほっとしたような顔をしている彼を見て、曲のコトが知りたくなっちゃった。


 声をかけたら、彼は一瞬迷って「うん」とうなづいた。