「わたし、冗談なんて……!」


 言葉を続けようとすると、爺はもう一度『しー、と静かに』のポーズをしてほほ笑み、ささやいた。


「そこまで、お嬢さまに思われて、宗樹は幸せ者でございます~~
 宗樹は、根が生真面目な上、藤原家の掟を熟知している執事の卵。
 内々では、数百年に一人出るかどうかの逸材であると騒がれる者でございますれば。
 それが、あのような行動に出たのなら、それはよっぽどのことでございましょう。
 それに、今日ほど……お嬢さまと宗樹がこんなに楽しそうになさっている姿を爺は見たことがございません」


 今は、まだ確約できませんが、将来、もし。


 宗樹がお嬢さまにつり合う者に成長できたなら。


 そして、お嬢さまのお心が、大人になっても変わらないのならば不肖、この藤原宗一郎、二人の門出にお力添えをさせていただきます。


 そう、言ってそっと片目をつむる爺を見て、わたしは胸が一杯になった。


 それは、爺が、わたしと宗樹の仲を取り持つ味方になってくれるっていうことなんだ!


 嬉しい!


 藤原家の当主は、今宗樹のお父さん、宗次だけども!


 藤原家で一番の年長者のお墨付きがあれば、先はもっと楽かもしれない。


「爺は、藤原の掟に背いてまでなんで手伝ってくれるっていうの?」


 嬉しくてそう、聞いたら、西園寺執事長、藤原宗一郎が胸を張って言った。


「西園寺の執事たるもの、主のご希望ならば、どんな願いでもをかなえて差しあげることが、真のお役目でございます。
 それに宗樹は、わたくしの愛しい孫でございますから」



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