「宗樹は! 宗樹は執事じゃないもん!」


「確かに、西園寺家執事を名乗るには、まだまだ未熟すぎ、かつ、粗末でございます。
 本来ならば、決してお嬢さまとお会いすることは無かったのですが……」


「そんな意味で言ったんじゃないもん!
 『執事の宗樹』はキライ。
 今更、時代錯誤の身分違いなんて越えて、同じ立場で前に進んでいきたいのに……宗樹は、執事にはさせないわ!」


「それは、西園寺家と藤原家の歴史と伝統に逆らう、重要な禁忌(きんき)でございます。
 そのことだけは、例え主(あるじ)の西園寺であっても口出し無用。
 執事にならないのなら、藤原の家を出て、西園寺とも今後一切関わることはできません」


「そんなコトになったら!
 わたしだって西園寺を出て……」


 行くんだから! と言いかけたわたしの口に爺はそっと人差し指を当て。


 今まで、ほとんど表情が無く、淡々としゃべっていた口調を変えた。


 お役目~~とか言ってても、どことなくあったかい、いつもの爺だ。


「お嬢さまが西園寺から出て行く、などと言うことは、ご冗談でも決して申し上げてはなりません~~
 西園寺家は、巨大で光輝いている分だけ、魔窟とぃっても良い面がございます。
 どこで誰が聞いてて、何を想うか判りませんゆえ」