うそつき執事の優しいキス

「僕は、こんな風に機械と暴力に囲まれて育ったんだ、けど。
 一度父の仕事についてミニバイクのサーキッドに行ったことが、ある」


 どうやら、十六歳以下でも講習を受ければバイクに乗れる場所で。


 蔵人さんのお父さん。


 走行中のミニバイクのレーサーとトレーナーが通信出来る機器を開発しに行ったらしい。


「そこで僕は初めて宗樹に、あった。
 まるで機械みたいなめちゃくちゃ正確な走り、で。
 誰よりも早く走るアイツが同じ年、なんて。信じられなかった。
 アイツの走りで、今まで暗かった世界が音を立てて崩れた感じ、した」


 それから僕もすぐミニバイク始めて、必死に練習したけれど。


 全然宗樹には追いつけなくて、なんて。


 笑う蔵人さんの言葉を聞いて、わたしは首を傾げた。


「え? でも雷威神で一番速かったのは蔵人先輩だったんじゃ……」


「……速かったのは、僕。
 だけど上手いのは、宗樹。
 宗樹は公道での集団走行では無謀な運転一切しなかった、から。
 皆の前では僕が一番ってことになってた、だけ。
 宗樹はトレーナーの言うことも、道路の交通標識も全部丸々インプットして、そのまま出力している、感じ?
 何時でもどこでも冷静で、正確で、歪みのない機械みたいな、ヤツ。
 僕はそのままで居心地良かった、けど。
 神無崎裕也は宗樹に『もっと笑え』って散々怒鳴ってたっけ。
 その時は、何莫迦なことをしてるんだ、って思った、けど。
 ……今なら裕也の気持ちが判るよ」