うそつき執事の優しいキス

「西園寺さん!」


「はい!」


「西園寺さん、是非ウチの社交ダンス部に!」


「すみません、今ちょっと考え中でっ!」


「いえいえ、華道部に!」


「英会話研究会が先です!」


 最初のうちは、ちゃんと返事をしていたんだけど、あっという間にごちゃごちゃになって、収拾がつかなくなる~~


 だから、わたし、こんなことをしている場合じゃないんだってば!


 一刻も早く、旧校舎の第三音楽準備室に行きたいんだけど!


 でも旧校舎って今、部室や部の活動場所に使われている場所だからして。


 勧誘の皆さんが増えたって、減ることは無かったのよ~~!


 あっという間に、皆に取り囲まれて一歩も歩けなくなった時だった。


「……おい。貴様ら、どけ」


 低い声が集団を割った。


 そんな大きい声じゃない。


 けれども、本物の獣みたいな不機嫌で危険な声に、大騒ぎをしていたヒトビトが一瞬しん、と静まりかえり、止まる。


 そして次の瞬間ざわざわと、さざ波のように小さな声が、広がって聞こえた。


「蔵人・ライアンハートだ!」


 ぎょっとしたように呟いた、誰かのその声に止まっていた時間が、動きだした。