うそつき執事の優しいキス

 「蔵人さんっ!」


 わたしが産まれてから今までに出した声の中で、一番の大声に、蔵人さんも、びっくりしたように足を止めて振り返った。


「今の歌!
 さっき岩の上で歌っていた歌のフレーズと、同じですよね?
 それって歌い方を覚えていて、一度歌った歌をもう一度、歌っているんですか?
 例えば、今日の歌じゃない。
 一昨日の歌を今、もう一度歌うことが出来ますか!?」


 蔵人さんに、ばたばたっと近づいて聞いたら、彼は、二、三歩後さずって言った。


「……えっと……
 音程関係ない覚え方で良けれ、ば。
 口の開け方とか、息の出し方っていう形で良ければちゃんと覚えてる、けれど……
 それが同じ歌かどうかは僕には判ら、ない」


「試しに、もう一度歌って貰って良いですかっ!」


「う……うん」


 わたしの剣幕に、蔵人さんは何度かうなづくと、空を見上げて、大きく息を吸い……やがて、歌いだした。


 一昨日聞いたのと、全く同じ海と桜と風の歌を!


 わたし、西園寺で一流の音楽家にピアノを習ってるから、絶対音感か、それに近い音感持っている。


 そんなわたしが何度か聞いても、ブレが見つからないほど正確に同じメロディーを蔵人さんは繰り返すことが、出来たんだ……!