うそつき執事の優しいキス

「わたし、西園寺 理紗(さいおんじ りさ)って言います。
 君去津高の一年です」


「……理紗……」


 名乗ると、蔵人さんは名字じゃなく、名前の方を優しく呼んでくれた。


 わたしはクラスメートから、いつも『西園寺さん』って呼ばれ、宗樹だって『お嬢さん』としか呼ばない。


 だから、蔵人さんがわたしの名前を呼び捨てにすることが、何だかくすぐったい。


 わたしはひとさし指同士をツンツンとつつきながら言った。


「わたし、蔵人先輩がどんな歌を歌っているのか、一番初めに聞いて判ったので……怖くないです」


「本当?」


「歌とか音楽って、演奏者の本当の心が表に出てくるものだって、信じているんです。
 こんなに優しい歌を歌う人が、怖い人のわけ無いじゃないですか」


「も、そんなコト言ってると本当に好きになっちゃう、よ?」


 蔵人さんは、あはははって笑うと。


 さっきまで岩の上で歌っていたフレーズを鼻歌みたいに歌いながら、海沿いの道を、学校に向かって歩き出す。


 その、スキップしているしているか、踊って見える歩き方に、相当嬉しそうだなぁって。


 こっちまでにこにこ笑いだしたくなり……わたし、はっと気がついた。


 ちょっと待って!


 蔵人さん『さっき、岩の上で歌っていたのと同じ歌を、今、鼻歌で歌ってた』よねっ!?


 もしかして!!


 わたし、とってもいいことを思いついて、蔵人さんを追いかけた。