うそつき執事の優しいキス

 冗談なのか、本気なのか。


 蔵人さんは、楽しそうに笑いながら言った。


「せっかく僕の声を『歌』だって言って、くれる。
 たった一人のコを見つけた、のに。
 僕は名前を聞かなかった、から。
 すごく残念だって思って、たんだ。
 だから今日は君に会えると良いなって思いながら歌って、みた」


 一番初めて出会った日は、傷の付いた顔をさらした揚句、ステージで暴れちゃったし。


 昨日は、停学処分になったのに、通学時間に私服でうろついているところを見られたし。


 クローバー・ジャックに……宗樹に話を聞いたってことは、僕が暴走族の総長みたいなことを本当にやってたって、知ってるんだろう?


 今日は、怖がってもう、声をかけてくれないかと思った~~なんて。


 困ったように笑う蔵人さんを見て、なんだかほっこりする。


 このヒトも怒って怒鳴ると獣(けだもの)だけど、フツーの時はきっと中身も天使なんだ。


「……それで君の名前を聞いても良い、かな?」


 聞かれるのが嫌だったら、断ってね、みたいな。


 神無崎さんとは正反対。


 強く握れば、ぱきっと砕ける、持ちなれないガラス細工を扱うような緊張感たっぷりな声に、わたし、ちょっと笑っちゃった。