うそつき執事の優しいキス

 思わず叫んだ言葉に、蔵人さんは、びっくりしたように目を見開き……


 次に、辛そうに目を閉じた。


「僕は、ダメ。
 ……音痴だって言った、はず」


「でも!
 昨日、ここであんなにいい声で歌ってたじゃないの!
 宗樹も、蔵人さんが音程取れないって言ってたけど、そんなのただやり方が判らないだけじゃないんですか?
 きちんとした先生について、真面目に練習すれば、絶対歌えるようになりますよ?」


 蔵人さんの声、とっても素敵なのは、判っているんだもん。


 もったいない!


 わたしが……って言うか『西園寺』が手を貸せば、なんとかなるんじゃない?


 朝起きる時に、執事にピアノの生演奏をさせているくらいだ。


 ウチは、音楽家の知り合いだって多い。


 蔵人さん、英語しゃべれるみたいだし、世界でも一流の声楽講師をつけてトレーニングすれば……!


 うん。もう、乗りかかった船って言うヤツ?


 有り余るお金の使いどころって、きっとここで間違いないよ。


 そう、思った……んだけど!


 顔の前、とはいえ。密かな決意で握ったはずのわたしの拳骨を蔵人さんは、つんつんつついて、息を吐いた。


「残念。
 僕はどんなヒトに音楽を習っても、無理。
 やる気はあっても、無駄。
 ……僕の耳は壊れているから、ね」