うそつき執事の優しいキス

 道行くヒトビトは、悪気がないんでしょうとも!


 わたしは、簡単によろけて壁に手をついた。


 こ、転ぶかと思った!


 あ~~あ。またやりなおし。


 どうやら、この人々の間を抜けて、もう一度切符の自動販売機の前に行かなくちゃなんないらしい。


 ため息をついて、ちゃんと立とうとした時だった。


 人通りの少ない通路の隅で、床に直接お尻をついて座り込んでるヒトと、ちらっと目があったような気がした。


「……え?」


 思わず見つめなおすと、その人は、がくっと力尽きたようにうつむいた。


 爺からは、駅で他人に声をかけられても無視するように言われてた。


 もちろん、わたしだって、座り込んでいる人が、酔っぱらったおじさん、とかだったら絶対近づかなかったけれど……


 座り込んでるヒト、とても若くて、わたしと同じ年くらいの男子に見える。


 しかも、痛そう~~


 顔が殴られた、みたいに腫れあがってた。


 ……どうしよう?


 ケンカでもしたあとなのかな?


 わたし、これから入学式、だ。


 しかも、自分の通う高校の駅も良く判らない以上。


 記念すべき高校生活第一日目に、遅刻したくなかったら行きかうヒトビトと同じように無視して行っちゃうのが『普通』なんだろう。