「もう、車を出しちゃったもんね~~」


『はい、シートベルトして』ってにこって笑ってみたら、宗樹は仕方なさそうにずるずると後部座席に沈み込むように座った。


「マジ……勘弁してくれ」


「どーして?
 別にいいじゃない、帰りに一緒に車に乗るくらい。
 電車は、ちゃんと付き合ってくれたのに」


 わたし、なんで宗樹がこんなに頑固に一線を引きたがるのか、やっぱり良く判らなかった。


 君去津駅で、騎士の真似事をして『わたしのモノ』ってやってたけれど、それは今とは、時代が違うんだよね?


「爺には、もちろん黙っておくけど?」


「……そういう問題じゃ、ねぇんだよ」


 結局、わたしから一番離れた後部座席のシートに座り。


 窓の外を眺める宗樹は、ふてくされたようにつぶやいた。


 宗樹が、そんな態度を取る原因が判らないまま。


 ウチの車は、見慣れた住宅街に入ってゆく。


 山を切り開いて出来たかなり大きな住宅街で、田舎って言うよりは外国の絵本に出てくるようなおしゃれな街灯に照らされた、お菓子の国みたいな家々やマンションの建つ街並が広がっている。


「あら、宗樹の家って案外ウチに近いのね」


 思わずつぶやいた、わたしの言葉に宗樹はぼそっと答えた。