うそつき執事の優しいキス

 一応、ここから君去津までの運賃は知ってるし、乗換える駅まではかろうじて書いてある。


 だから今、すごく混んでる人ごみを避け。


 一応切符を買ってちゃっちゃと電車に乗り込み、後の事は乗換え駅で聞いちゃえば良い、って判ってるんだけど……も。


 路面図に、最終目的地が書いて無いって怖いじゃない。


 きちんと書いてあるはずの乗り換え駅でさえ『ほんとにあそこで良かったんだっけ?』って心配になる。


 うぁ~~しまったな。


 電車なんて、簡単に乗れるもんだと思ってた。


 こんなことならちゃんと調べておけばよかった、と思っても、もう遅い。


 慣れないことをするんで、早めに家を出来たとはいえ、このまま、ボーっとしていたら、入学式に遅れちゃう。


 家に電話をかけたら絶対、宗一郎がここに車まわして来ちゃうだろうし。


 他に誰か、聞ける人は……そうだ、駅員さん!


 ……って、その自動販売機前から移動しようと思った時だった。


 わたし、そっから二、三歩後ろに下がっただけで、ヒトの渦に巻き込まれた。


 きゃーー


 わーー


 心の中で叫んでるわたしを心底邪魔そうに押し流し。


 通勤ラッシュのヒトビトは、わたしを駅で最も人通りのない薄暗い通路に突き飛ばした。


 きゃ~~~