うそつき執事の優しいキス


 ……と。


 心配する爺を勇ましく『行ってまいります』と振り切って、順調に行けたのは、近所の駅までだった。


 今は、丁度朝の通勤通学時間の真っ最中。


 とっても混んでる駅では、人ごみに押され、行きたい場所にたどりつけなかったんだ。


「きっ……切符を買う自動販売機、ってドコ!」


 ここの駅を利用する人々のほとんどが、定期券を持っているらしい。


 駅に着くなり、みんな切符を買うことなく、直接改札口に直接入るもんだから。


 人ごみ初心者のわたしなんて、簡単に人の流れからぽーーい、と放りだされてしまう。


 だから、目の前の自動販売機へ簡単にはたどり着けず……そして。


 やっと、自動販売機までたどり着いても……


「きっ……君去津(きさらづ)駅、ってドコ!」


 今いる駅から、いくつか駅を過ぎた先で、一回電車を乗り換え。


 更にいくつか行った先に、これから通う高校のある君去津駅があるはずなんだけど。


 自動販売機前の壁にずらっと書かれた電車の路面図に『君去津』なんて駅名がなかった。


 なんで!?


 どーして、見当たんないの!?