幕末オオカミ 第三部 夢想散華編



今にも殴りかかりそうな剣幕で、永倉先生はまくしたてた。


もともと農民だった近藤局長が、たくさんの苦労をしてここまでやってきたことは皆知っている。


けれど、武士の位より、なにより大切なものに、あたしたちは気づいてしまったんだ。


身近な人が儚く散っていく悲しみを、あたしたちは鳥羽伏見で知ってしまった。


剣と剣の戦いをしていた時代は終わった。


旧式の戦いしか知らないあたしたちに待つのは、新政府軍による虐殺だけだ。


「援軍が来る。それまで持ちこたえれば勝てる」


局長は永倉先生を見つめると、力任せに腕を振り払い、陣営から出て行ってしまった。


「総司……ごめんな、無理させて」


泣きそうな顔で謝る平助くん。


「お前のせいじゃねえよ」


口元をぬぐう総司も、泣きそうな顔をしていた。


……その夜は説得をあきらめ、すぐに休むことにした。


総司はあたしの血を少し舐めると、少し青いままの顔色で、眠りについた。


隣にいるあたしの手を、にぎったまま。