副長が名前を呼ぶと、忍装束の山崎監察が廊下から突然姿を現した。
「永倉や原田たちに伝えてくれ。奉行所炎上のため、一時退却すると」
「御意」
指示を受けると、監察はすぐにその場から姿を消した。
「総司、もののけのことはお前に任せる。頼んだぜ」
「はい、土方さん」
「それにしても……この俺が、退却命令を出すことになろうとはな」
副長は自嘲気味に、ふっと笑う。
かと思うと、奥歯をぎりりと噛み、固くにぎった拳で、近くにあった柱を殴りつけた。
「近藤さんに合わせる顔がねえじゃねえか……!」
心底悔しそうに顔を歪める副長。
その様子に、こちらまで胸が痛くなる。
「副長、まだ戦は始まったばかりです。きっと、挽回する機会があります!」
思わずその袖をつかんで叫ぶと、副長は振り払うように歩き出す。
「お前に言われずともわかってらあ!行くぞ!」
「は……はい!」
こうしてあたしたちは、炎上する奉行所から退却せざるを得なくなったのだった。
日は、すでに沈みかけていた。



