幕末オオカミ 第三部 夢想散華編



副長が名前を呼ぶと、忍装束の山崎監察が廊下から突然姿を現した。


「永倉や原田たちに伝えてくれ。奉行所炎上のため、一時退却すると」

「御意」


指示を受けると、監察はすぐにその場から姿を消した。


「総司、もののけのことはお前に任せる。頼んだぜ」

「はい、土方さん」

「それにしても……この俺が、退却命令を出すことになろうとはな」


副長は自嘲気味に、ふっと笑う。

かと思うと、奥歯をぎりりと噛み、固くにぎった拳で、近くにあった柱を殴りつけた。


「近藤さんに合わせる顔がねえじゃねえか……!」


心底悔しそうに顔を歪める副長。

その様子に、こちらまで胸が痛くなる。


「副長、まだ戦は始まったばかりです。きっと、挽回する機会があります!」


思わずその袖をつかんで叫ぶと、副長は振り払うように歩き出す。


「お前に言われずともわかってらあ!行くぞ!」


「は……はい!」


こうしてあたしたちは、炎上する奉行所から退却せざるを得なくなったのだった。


日は、すでに沈みかけていた。