「……すまねえ、楓。
お前を傷つけなければ生き延びられないなら、俺は生きる権利なんかないのかもしれない」


そう言ってあたしの瞳に映る総司は、もののけの頭領なんかじゃなく、ただの一人の若い男だった。

苦しげに眉根を寄せ、低い声が言葉をつむぐ。


「けど、まだ俺は生きなきゃならねえ。生きていたいんだ」


新撰組のために。自分自身の誇りのために。


「……血を、くれ」


吐き出すように、総司は喉からその一言を搾りだした。



傷つけたくないと言ってくれた。

松本先生に、幸せにすると頼まれて、うなずいてくれた。


わかってるよ。その気持ちに嘘がないことくらい。


だからそんなに、悲しそうな顔をしないで。


生きる権利がないなんて、言わないで。


「はい」


あたしの髪も手足も、全部総司のものだから。

どこからでも、持って行っていいんだよ。



静かに立ち上がり、両手を広げる。

そんなあたしを、同じように立ち上がった総司が抱き寄せる。

銀月さんが入ってきたときに、少しだけ空きっぱなしになっていた障子の隙間から、月光が差し込んだ。