幕末オオカミ 第三部 夢想散華編



「総司、大丈夫?」


声をかけると、総司はハッとしたような顔で、こちらを振り向く。

その口を押えていた手のひらに、赤いものがついていた。


「あっ……!」

「静かにしろ」


総司は眉をひそめ、あたしの手をつかむと、廊下の奥へと足早に歩いていく。

局長の綿入れが、静かな音を立てて廊下に落ち、置き去りにされた。


やがて総司とあたしに割り当てられた部屋に入ると、やっと手が離された。


「……すまん。血が出たのは、今が初めてだ。黙ってたわけじゃない」


いきなり謝られて、責める言葉を失ってしまう。


咳がひどいとは思ってたけど、血を吐いてしまうなんて。

隊務から離れて狼化することもなくなり、体力的には伏見にいたときよりずっと楽なはずなのに……。


「やっぱり血を飲まなきゃダメだよ」


池田屋のときのように、あたしの血を飲めば楽になるはずだ。

けれど、総司はなかなか首を縦に振らない。


「池田屋で大量の血を飲んだのに、完治しなかったんだ。
今良くなっても、きっとまた、同じことの繰り返しだ。
そのたびにお前を傷つけるなんて……」


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」


うつむく総司の手を、無理やり握る。


「傷つくのなんか構わないよ。嫁入り前の娘なら問題かもしれないけど、あたしはあんたの嫁になったんだ。
夫婦が支え合うのは当然のことでしょう?」


のぞきこむと、固かった総司の表情が、くしゃりと歪んだ。