図書館に到着し、駐輪場に自転車をとめ、図書館内に入った。考えてみると、こうして二人で図書館に行くというのは生まれて初めてである。

「…図書館に一緒にこうやって来たことって今までない、か。」
「…今、同じことを考えていました。」
「…そう、なんだ。」

 『…そういうの、ちょっとやばい、かも』と言って口元を押さえる圭介に、美海は首を傾げた。圭介と目が合うが、圭介は美海から目を逸らして何も言ってくれない。

「…浅井、さん?」
「…なに?」
「何か、…気に障ること、してしまいましたか?」
「…してない。でも…ごめん、言いたくない。」
「…そう、ですか…。」

 あからさまに落ちてしまった声のトーン。閉ざされるとこんな感じかと自分の発言を反省する。言われてみると結構切ない。

(…こういうこと言って、浅井さんをこういう気持ちにさせてたのかな…私。ものすごく反省しないと…だめかも。)

「…本返してから向こうで本読んでる。閉館5時半だから、そのぐらいに出ようと思うけど…もっと早い方がいい?」
「いえ…その時間で大丈夫です。」
「じゃあ、その時間に。」

 ここからは落ち着いて考えれば良いという圭介の優しさはちゃんとわかる。だからこそこうして一人にしてくれようとしていることも。ただ、美海としては圭介の『言いたくない』が気になってしまって仕方がない。頭の中で整理したいことは別にあるのにも関わらず。

「…ちゃんと考えなきゃ、いけないのに…。」

 伝えるべきことを、きちんと選びたい。目先のことに囚われていていい時ではない。それなのに、もやもやしてしまって、進めない。
 そんな美海をよそに、圭介は前に座っていた定位置とも呼べる場所で本を読み始めていた。目は合わない。

(…集中。集中して考えなきゃ。)

 涼しい空気がぶわっと美海の髪に当たり、美海の髪が少しだけ靡いた。ふわりと浮きあがった髪とは裏腹に、気持ちは少し沈んだまま、浮上してくれそうにない。