「…そんなに、わかりやすかったですか?」
「美海ちゃんがわかりにくいって思ったことの方が少ないよ。でも…。」

 一瞬視線を泳がせた後、真っ直ぐに美海を見つめて福島は口を開いた。

「素直に生きればいいのになぁって思ったことは、たくさんある。欲しがればいいのに、何でもって。」

 その言葉は美海にはあまりにも重かった。素直に生きることは怖い。自分をさらけ出すことは…

「…怖い、です…。」
「怖い?何が?」
「素直に…生きる、ことが…です。」

 だからこそ眩しく見えた。玲菜のように真っ直ぐに誰かを好きだということ。そして、相手を真正面から見つめることは、美海にはあまりに眩しすぎて、真似なんかできない。

「どうして、って聞いたら美海ちゃんは困っちゃうのかな?」
「…理由、…ないのかもしれません。」

 心がざわつかないと言えば嘘になる。ただ、心の奥はどこかとても冷静だ。

「でも、きっかけはあるんじゃないの?」
「…きっかけ…ですか。」

 まるでカウンセリングを受けているかのようだと思う。一つ一つ、問われたことを真っ直ぐに思い返して、照らし合わせる。ある意味、今の自分は素直だ。
 きっかけは、なくはない。ただ、それを理由にするにはあまりに勝手な気がした。過去は過去だ。変えられないし、戻ることもできない。過去は誰にもあり、その過去に縛られるか縛られないかを決めたのは自分だ。今の自分は縛られることをあえて選んでいる。その方が楽だと思っているからだ。

「…あったとしても、今、自分がこうしているほうが楽って思ってこうしてるとしたら…もう過去のせいとは言えないかなって。」
「おー至極真っ当な意見。私もそう思う。どんな過去があったって、今を選ぶのは自分だよね。」

 福島はもう一口グラスを煽った。真面目ではあるのだが、堅苦しすぎない程度には明るい空気で、福島は口を開く。

「そういうことがわかっている美海ちゃんだからこそ、私は己の心に正直に生きてほしいと思うわけよ。」
「嘘をついているように…見え、ますか?」
「嘘をついているようには見えない。だけど、避けているようには見える。」
「…合っている、かもしれません。」
「だてに美海ちゃんより長生きしてないし。」
「長生きって…。」
「浅井さんのことを好きだって、美海ちゃんが言ったとしても誰も傷つかないよ?」

 まるで、その場にいたのではないかと思えるくらいには超能力を感じてしまう福島の物言いに、あの日のことが蘇ってしまう。あの日のことを思い出すと息苦しくなる。圭介に対して、というよりは自分に対して。つまりは、謝らせてしまった自分が情けなくて。