＊　＊　＊

「はぁー…既成事実作っちゃおう作戦、大失敗。」

　そう言って、玲菜はごろんとベッドに大の字で寝転がった。バカらしくて、惨めな気持ちになってくる。涙がじわじわと込み上げてくる。

「…酷いなぁ、圭ちゃん。」

　自分の気持ちを本気で受け取ってくれてはいないことを玲菜はきちんと知っていた。だからこそ、いつだってどうやったら本気に受け取ってくれるかを考え続けてきた。それなのに、どれだけ言ってもどんな顔で言っても、正面から受け取ってすらもらえない。それがどれだけ辛いことなのか、圭介には一生、わかってもらえることはないのだろう。
　玲菜の目から、涙が零れ落ちた。

「あー…もう…！絶対あたしの方が圭ちゃんのこと好きなのに…なぁ…。」

　まだ土曜日の2時だ。休みは長いというのに、こんなどんよりした気持ちを一体どこにもっていけば良いのだろうかと思い、スマートフォンを取り出した。玲菜の相談相手は二人いる。一人はバイト先の店長である福島、そしてもう一人は幼馴染である。幼馴染は土曜のこの時間は確実に部活だ。

「…店長にしよう。」

　福島のシフトが今日入っているのかは知らない。コール音がなかなか声に変わらない。

『んー玲菜ちゃん？どうしたのー？』

　いつも通りの明るい福島の声に、玲菜の涙腺は崩壊した。

「てんちょおー！もうやだー！」
『ちょ、ちょい待ち！玲菜ちゃん？意味がわからない。』
「あたしも意味わかんないー！圭ちゃんのばかー！」
『な、何があったのか知らないけど、今休憩中なの。今日4時までだから、その後にしか話聞けないけど話聞くよ。いつものファミレスにんー…4時半かな、いい？』
「はいー！お願いしますー！」
『落ち着け落ち着け。』

　福島の声は優しくて落ち着くから好きだ。年上の女性で、玲菜が気兼ねなく何でも相談できる相手は福島しかいない。4時半まで2時間半。せめて涙は止めようと思う。