現在時刻、9時58分。閉店まで2分というところだった。平和にアルバイトが終わる(自分がミスをしない限りは)と思っていたのに、思わぬ刺客が現れた、と言っても今の美海にとっては過言ではない。
「彼氏じゃないの?」
「かかか彼氏なんて…!めめめ滅相も…!」
「どうして?美海ちゃん、可愛いんだからモテるでしょう?」
「も、モテないですよ!むしろ男の人は苦手で…。」
「えぇーそうなの!?じゃあいいじゃないの、丁度。」
「丁度いいって何が…。」
「あ、美海ちゃんレジ。」
「あ、はいっ!」
そう言って正面を見ると、圭介が立っていた。美海は思わず目を見開いた。冷静でなどいられない。
「お願いします。」
「お、お預かり、…致します。」
昨日の飲み会も、帰りもこんなに気まずい雰囲気じゃなかった。それなのに、今はこんなにも気まずい。美海だけが気まずさを感じているのかもしれないけれど、圭介が同じ感情を今もっていたとしても状況はさして変わらない。とにかく気まずい。手元しか見れない。
圭介がレジに持ってきた本は文庫と新書が1冊ずつだ。どちらも『朝日奈馨』の本である。
「新刊、そういえば出てましたね。」
「給料出たから、自分へのご褒美に。」
あまりにもするりと出た自分の言葉に重なる圭介の言葉。気まずさが一瞬なくなった。
「あ、えっと、申し訳ありません。つい、ぽろっと…。」
「え、何が?…というか、謝るのは俺の方だと思うんだけど。」
「っ…、い、今、き、勤務中、ですのでっ…。え、えっと、2890円になります。」
そっと置かれた三千円。それを手に取りレジにしまい、お釣りの110円を右手に乗せ、左手は圭介の手の下に添えて渡す。ほんの少しだけ触れた手に美海の顔が熱くなった。
「終わるの待ってる。」
「え…?」
「ちゃんと話したいから。」
「…時間、かかります。」
「うん。それでも、待ってる。」
圭介の口元が少しだけ優しく緩んでいる。たったそれだけのことなのに、それが嬉しくて心臓が跳ねる。
「ありがとう、…ございました。またのご来店お待ちしております。」
「うん。また利用する。」
待っててください、とは言えない。顔が沸騰しそうに熱い。
「よしっ、10時。彼が最後のお客さん。ってことでタイムカード切ったら帰っていいよ?待ってるんでしょう、彼。」
「…合わせる顔が…上手に作れ、…なくて。」
「あららーワケあり?」
福島が美海の顔を覗き込んだ。
「彼氏じゃないの?」
「かかか彼氏なんて…!めめめ滅相も…!」
「どうして?美海ちゃん、可愛いんだからモテるでしょう?」
「も、モテないですよ!むしろ男の人は苦手で…。」
「えぇーそうなの!?じゃあいいじゃないの、丁度。」
「丁度いいって何が…。」
「あ、美海ちゃんレジ。」
「あ、はいっ!」
そう言って正面を見ると、圭介が立っていた。美海は思わず目を見開いた。冷静でなどいられない。
「お願いします。」
「お、お預かり、…致します。」
昨日の飲み会も、帰りもこんなに気まずい雰囲気じゃなかった。それなのに、今はこんなにも気まずい。美海だけが気まずさを感じているのかもしれないけれど、圭介が同じ感情を今もっていたとしても状況はさして変わらない。とにかく気まずい。手元しか見れない。
圭介がレジに持ってきた本は文庫と新書が1冊ずつだ。どちらも『朝日奈馨』の本である。
「新刊、そういえば出てましたね。」
「給料出たから、自分へのご褒美に。」
あまりにもするりと出た自分の言葉に重なる圭介の言葉。気まずさが一瞬なくなった。
「あ、えっと、申し訳ありません。つい、ぽろっと…。」
「え、何が?…というか、謝るのは俺の方だと思うんだけど。」
「っ…、い、今、き、勤務中、ですのでっ…。え、えっと、2890円になります。」
そっと置かれた三千円。それを手に取りレジにしまい、お釣りの110円を右手に乗せ、左手は圭介の手の下に添えて渡す。ほんの少しだけ触れた手に美海の顔が熱くなった。
「終わるの待ってる。」
「え…?」
「ちゃんと話したいから。」
「…時間、かかります。」
「うん。それでも、待ってる。」
圭介の口元が少しだけ優しく緩んでいる。たったそれだけのことなのに、それが嬉しくて心臓が跳ねる。
「ありがとう、…ございました。またのご来店お待ちしております。」
「うん。また利用する。」
待っててください、とは言えない。顔が沸騰しそうに熱い。
「よしっ、10時。彼が最後のお客さん。ってことでタイムカード切ったら帰っていいよ?待ってるんでしょう、彼。」
「…合わせる顔が…上手に作れ、…なくて。」
「あららーワケあり?」
福島が美海の顔を覗き込んだ。



