10回目のキスの仕方

* * *

「美海ちゃん、レジお願いね。」
「はいっ!」

 講義後、6時から10時までの時間帯にバイトが入っていた。仕事を第一優先に考えることのできる時間は、今の美海にとって少し楽だった。余計なことを考えなくて済むのは素直に有難い。

「3冊で1670円になります。」

 そう言いながらポイントカードを切り、袋に本を入れる。トレイに丁度出された代金に安堵する。お釣りはバイトの初日にも何度もやったが少し緊張してしまうからだ。

「レシートです。ありがとうございました。またのご来店、お待ちしております。」

 商品を渡してからぺこりとお辞儀をした。一連の流れはひとまずできるようになった。

「慣れてきたわね~習得早いね、美海ちゃん。」
「店長!ありがとうございます。」

 レジに入る美海の後ろで、コミックにビニールを巻いている。この時間帯は店長と美海だけだ。

「美海ちゃん、丁寧ね。ブックカバー折るのも上手。」
「そんなこと…ないです…。」
「あらあら、顔が真っ赤。」

 店長の福島は30代の女性だ。さっぱりした雰囲気は明季に似ている。美海の小さなミスも笑い飛ばしてくれて『何事も慣れよ、慣れ!』が口癖だ。

「あとはセールストークもできるようになるといいけどね。」
「セールストーク…ですか?」
「美海ちゃん、本よく読むんでしょ?おすすめの本とか話せたり、まぁ世間話とかもできるともっといいかな。」
「…が、頑張ります…。」
「あ、いらっしゃいませー!」
「いらっしゃ…。」

 美海の言葉はそこで途切れた。自動ドアを越えて入ってきたのは、圭介だった。
 圭介は美海を見て、少し複雑そうな表情を浮かべて小さく頭を下げた。美海もぎこちなく頭を下げる。

「あら、知り合い?」
「えっと、はい、…あの、大学の同期の方で…。」
「へぇ~イケメンじゃない?」
「ててて店長!何言って!
「美海ちゃん、ますます真っ赤!」

 美海は頬を両手で押さえた。熱い頬の熱が手に伝わってくる。