* * *

 目を覚ますと、目の前に見慣れた顔の寝顔があった。

「…寝顔…初めて見ます。」

 初めてがまた一つ増えて、知らない顔を知っていく。それがこんなに嬉しくて温かいと教えてくれたのは圭介だ。美海はその寝顔を堪能することにした。

「…睫毛…長いです…。負けちゃうかも。」

 男の人の方が睫毛が長いなんてなんだかずるいと思ってしまう。髪の毛も少し外側にはねていて、いつもと違って何だか子供っぽい。

「…寝顔はちょっと幼いんですね。」

 寝顔の下にある胸板は厚く、抱きしめてくれている腕も強いのに、寝顔だけこんなに幼いなんてアンバランスで、そんなことを思うと急に胸が苦しくなった。胸の奥がきゅっと締め付けられるような、そんな感覚だ。
 何かに引き寄せられるようにそっと手を伸ばし、髪に触れた。くるりと指に絡めて遊ぶと、すぐにその髪は指から抜け落ちた。

「…楽しそう、だね…。」
「っ…お、起きてましたか!すみません!」
「今起きた…。」
「起こしてしまいましたか?」
「…ううん。勝手に起きた。遊んでていいよ。」
「そ、そんな…!圭介くんで遊ぶなんてこと…。」
「してたでしょ、今。」
「そ、それはそうなんですけど…それは寝てるって思ってたからで…。」
「起きてたらできないんだ?…美海が面白かったからもうちょっと見たかったんだけど。」
「…お、起きたんなら起きたって言って下さいよ!」
「ごめん。だって面白かったから。」
「…は、初めて見たんです、圭介くんの寝顔。…だから、つい…。」
「…あぁ、そっか。俺は美海の寝顔、何度も見てるけど。美海は違うか。」
「何度も…ですか?」

 圭介は頷いた。

「具合悪かったとき、春姉に潰されたとき、デートのとき、…あとはあったかな…。」
「そういえば…そんなことも…。」
「…実は寝てる美海で遊んだこともあるから、美海が遊んだことを俺はとやかく言えないんだけど。」
「えぇ!?」

 驚く美海の額にそっと口付けられる。驚いて目を閉じ、ゆっくりと開けると優しい視線にぶつかった。

「…この程度の遊び、だよ。」
「い…いつの間に…!」
「ひとまず、おはよう、美海。」
「…おはよう、ございます。」

 多分、生まれて初めての、こんなに気恥ずかしい朝。