「美海。」
「…はい。」
「…嫌なら、無理強いはしないけど。」
「…えっと…嫌じゃないんです…けど…。」

 顔から火が出そうだ。ただ、圭介に嘘をつくことはしたくない。

「その…はず、かしく…て…。」
「…うん。そうくる気はしてた。でも…。」

 そっと顔を引き寄せられて、唇を塞がれた。唇が離れて終わりなのがいつものキスなのに、今日は違う。名残惜しそうに離れた唇がすぐに重なり、呼吸を乱す。

「っ…ん…。」

 声が漏れて、それがより羞恥心を煽った。唇がようやく離れて視線がもう一度合うと、ぎゅっと身体を抱きしめられた。

「…だめなんだったら…そういう声出さないで。」
「…む、無理です…だって…熱くて…ぼうっとしちゃって…。」
「…ごめん。もう無理。泊まって。」
「で、でも着替えも何もなくて…。」
「取りに行って。…さすがに今いきなり押し倒したらびっくりするだろ?」

 美海は静かに頷いた。さっきのキスだけで充分驚いているのに、その先をちらつかせられて心拍数が上がらないはずがない。

「俺も少し頭冷やす。…けど、続きはするよ。」
「っ…わ、わかりました…えっと、気持ちを…作ります。」
「うん。玄関の鍵は閉めないから、…寒いし、すぐ戻って。」
「はいっ…。」

 家の鍵を持って、外に出た。外気は冷たいのに、頬の熱も身体の熱も冷ましてはくれない。むしろ、圭介の言葉を反芻すればするほど熱くなる。
 家の玄関を開けて、なるべく可愛い下着を選び、鞄に入れた。パジャマはいつも着ているものが無造作に置いてあったのでさすがに畳み直した。

「…はぁ…落ち着け…自分。」

 メイク落としにメイク道具、化粧水に保湿クリーム、ドライヤーも持つ。圭介の部屋に戻るのに、こんなに勇気を要したことは今までにない。

「…ふ、普通に戻る…か、考えない…。」

 圭介の家のドアを開けた。ザーザーと流れるシャワーの音を聞くと、より緊張が高まった。